司法修習生のお給料がなくなる日

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いよいよ明日はプロ野球ドラフト。
大学生投手が非常に豊作のようですね。
既に今シーズンを終えてしまった巨人ファンの私としては、来年のプロ野球がより一層楽しみです。
さてさて、皆様ご存知の方も多いかと思いますが、我々弁護士は、裁判官や検察官と同様、司法試験に合格した後、司法修習を経て、いわゆる二回試験というものに合格して初めて、実務家として活動することができます。
つまり、私たちもかつて裁判官や検察官とともに、司法修習生として研鑽に励んできた身なのです。
そんな司法修習生時代。
私は、国からお給料を頂いていました。
司法試験のために銀行を辞めたのが平成8年1月末。
それから一人上京して高田馬場で下宿して、一から勉強を始め、平成10年10月に2度目の司法試験挑戦で合格し、平成11年4月に第53期司法修習生として司法修習を始めるまでの合計3年2か月間、私は無職でした(合格~修習の間、受験生指導と答案添削のアルバイトはしましたが)。
約2年の銀行時代で得たわずかな貯蓄など、予備校の受講費用と書籍代であっという間になくなりました。
あとは、単なるサラリーマンで決して裕福ではない田舎の両親からの援助頼りで、一日でも早く合格することこそが何よりの恩返しと心得て、毎日10時間以上の勉強をしていました。
日々の生活も非常に切り詰め、遊びも一切せず、友達も殆ど作らず、何よりも勉強を優先し、勉強だけに没頭しました。
そんな厳しい日々を送ってきただけに、司法修習生としてお給料をいただけたことは、私にとって本当にありがたく、涙が出るほど嬉しいことでした。
これで田舎の両親ともども人生が潰れないで済んだと、本当にほっとしたものです。
ところが、そんな司法修習生が、来月からお給料をいただけなくなってしまうのです。
(ニュースその1)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
司法修習生、「給費制」継続困難に=来月から貸与制へ―自民に反対論
2010年10月20日(水)22:03
 司法修習生に国が給与を支払う「給費制」が20日、今月限りで打ち切られる方向となった。民主、公明両党などは、11月1日と定められた「給費制」から「貸与制」への移行期日を延期する法案を10月中に成立させることを目指していたが、自民党内で反対論が強まり、法案成立が困難な情勢となったためだ。給費制は11月から貸与制に切り替わる見通しだ。



 司法修習生には現在、月額約20万円などが支給されているが、法曹人口の拡大に対応するため、生活費を月28万円を上限に無利子で貸し付ける貸与制に改める改正裁判所法が2004年、民主、自民、公明各党などの賛成で成立。11月から施行されることになっている。


 しかし、「裕福な人しか法曹を目指せなくなる」との日弁連などの主張を受け、民主党は9月の法務部門会議で、移行時期の延期を目指す方針を決めていた。


 こうした中で、20日の自民党法務部会では「国家戦略として決めたのに、ぶれてはいけない」「一律に給与を払う必要はない。必要な人には返済を免除すればいい」などと、給費制継続への反対論が続出。平沢勝栄部会長は「(延期は)厳しい」と記者団に語った。 
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結局自民党は、民主党のやることなすこと全てに反対する立場なのでしょうね。
まあそれが現在の政権与党の力ですから、これも避け得ない運命なのかなとも思いますが。
日弁連は、給費制廃止を含む、司法制度改革そのものについて反対の立場でした。
司法制度改革って、実は日弁連不在で議決されてスタートしたものなんですよね。
いまや司法制度改革に対する肯定的な意見って、裁判員裁判制度が思いのほか機能しているという点くらいしか見当たらない印象です。
一方、最高裁は、司法制度改革推進の立場です。
この司法制度改革をめぐる経緯は、小林正啓弁護士の「こんな日弁連に誰がした?」(平凡社)という書籍に詳しく書かれています。
日弁連は、そんな最高裁と、給費制維持をめぐって先日も激突しました。
(ニュースその2)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
司法修習生:最高裁と日弁連が応酬 給費制維持巡り
2010年9月27日 11時39分 更新:9月27日 13時23分
 「金持ちしか法律家になれなくなる」として、日本弁護士連合会が司法修習生に給与を支給する制度(給費制)の維持を求めていることに対し、貸与制導入に向けて準備を進める最高裁が「国民の理解は得られているのか」と異例の物言いをつけている。制度維持の根拠を質問された日弁連は、逆に「最高裁が調査すべきだ」と反発、議員立法による制度維持を目指して各政党への働きかけを続ける方針だ。【伊藤一郎】



 司法修習生は現在、国費から月約20万円を支給されているが、11月からは月18万~28万円の貸し付けを受けられる貸与制に移行することが決まっている。司法制度改革で司法試験合格者の増加が打ち出されたことに伴い、04年に裁判所法が改正されたためだ。


 最高裁は既に、11月から修習を受ける司法試験合格者に対し、貸与を受ける意思を尋ねる通知を出した。修習終了後、5年間の返済猶予があり、6年目から10年間かけて返済することになる。1カ月当たりの返済額は2万5000円程度の計算だという。


 09年の弁護士白書によると、5年目以降の弁護士のうち64%は所得が1000万円以上で、最高裁事務総局の幹部は「月2万~3万円の返済が過酷と言えるのか」と指摘。今月10日と15日の2回にわたり、日弁連に質問書を送付し「給費制廃止で修習生に過酷な経済的負担が生じる」との主張の具体的な根拠を尋ねた。


 これに対し、日弁連は「司法試験合格前に借りた大学や法科大学院の奨学金を返済する人の場合、毎月の返済額が6万円以上になるケースもある」などとするデータを示し、「本来は最高裁が自ら調査、分析すべきだ」と主張。「合格者増による就職難もあり、弁護士の経済状況は法改正時に想定できなかったほど極めて厳しくなっている」と反論する。


 応酬が続く中、民主党は日弁連の主張を支持して13日の法務部門会議で給費制を維持する方針を確認。11月の制度移行目前になって議員立法化に向けた動きが進み始めた。


 最高裁側には「司法は立法と距離を保つべきだ」との声もあるが、日弁連側は「法改正を求めているのに政府が動いてくれる気配がないのだから、議員に陳情するしかない」と譲らず、今後も各政党に理解を求めていくという。
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最高裁は、若手弁護士は全て今後も儲けられると思っているのでしょうか。
全ての若手弁護士にとって月額2万5000円くらいは余裕で返せる額だと思っているのでしょうか。
とんでもない。
このままでは弁護士は確実に斜陽産業です。
司法制度改革の名を借りて大量手抜き生産されてしまった今の若手弁護士(一部の優秀な方を除く大半。以下同義)の収支は、本当に悲惨みたいです。
こんだけ苦労してきて、年収200~300万円なんて若手はざらだということです。
この仕事の魅力は必ずしも金銭面にあるわけではありませんが、少なくとも金銭面に限って言えば、大学卒業してどっかの会社に入った方がよっぽどましだったのではないでしょうかね。
多重債務者化した若手弁護士が世間に垂れ流される可能性が、本当に本当に現実に目の前にあらわれているのですよ。
今後の貸与給与債務の連帯保証人となるオリコに生殺与奪を握られた若手弁護士が大量生産されたら、一体どうなっちゃうのでしょう。
まあ、不景気と少子化で仕事は大して増えない一方で、法科大学院による大増員の余波で弁護士だけは増えていくのですから、若手弁護士が窮するのは当たり前ですよね。
大量手抜き生産方式となってしまった新司法修習制度のおかげで十分な手間と時間をかけられないまま、また年々苛烈化・長期化する就職活動の悪影響のおかげで超短期化してしまった司法修習にもなかなか専念できず十分に力が育成できていないまま、実務に放り込まれてしまうという、いわば未熟児みたいな状態の方が相当割合いるわけで、そんな方は私みたいな中堅選手以上をおびやかすほどの存在にはなかなかなれないでしょうし。
日銭に窮々するようでは、まず優秀な弁護活動はできないものですし、落ち着いてじっくり力をつけることもできないと思います。
弁護士力をつけられる事件って、必ずしもお金にはならないことも多いのです。
実は、裁判官や検察官は、法科大学院による大増員の影響を、まったくと言っていいほど受けていません。
結局国家公務員ですから、予算がつかないとか何とかの理由で、弁護士と比べるとほとんど増員されていないといえる状態なのです。
そんな安全な立場からなら、いくらでも耳触りのいいことを言えますよね。
某牛丼チェーン店のような法テラス(=若手の大半はここからの受任事件がメインと思われます)の弁護士報酬体系といい、大量手抜き生産の若手の垂れ流しが是正されそうにない現在の流れといい、大多数の弁護士は、近未来に確実に食えなくなると思います。
私自身は十分に生き残れると思っていますけど(笑)、そんな人ばっかりではないはず。
ただ、もしも貸与制が司法修習生の定数削減につながる第一歩なのだとしたら、その意味に限っては評価しても良いかもしれません。
確かに、多額の国家予算を投じて育成した(実は全く育成できていないけど)若手を大量に落第させたら、国費の無駄遣いもはなはだしいですよね。
貸与制であれば、大量落第させても、それほど国費の無駄遣いにはならないとはいえると思います。
しかし、大量に落第させるくらいなら、そもそも最初から司法修習生を大量にとらなければよいのですよね。
結局昔の制度が一番良かった、ということに落ち着くのではないでしょうか。
一体何のための、そして誰のための司法制度改革なのでしょうか。
ではまた。