表現の自由について(光市事件・実名掲載本の差し止め仮処分の件)

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今週は珍しく、何と毎日家裁の家事事件があるのです。
まさに「離婚弁護士」みたいな感じですね。ドラマ見たことないけど。
今日は重めの事件が無事和解解決できて、ほっと一息。
家事の場合、事件が解決したときの安堵感が大きいですね。
さてさて、昨日書きたかったんだけれど、仮処分却下決定の理由が分からなくて何も書けなかったこの事件。
ようやく決定の理由が少しだけ分かりました。
予想通りでしたが。
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「出版差し止めまでの違法性ない」=光市母子殺害、実名掲載本で-広島地裁
11月10日21時0分配信 時事通信
山口県光市母子殺害事件を取り上げた単行本で、被告の元少年(28)=差し戻し控訴審で死刑、上告中=が実名を掲載されたとして、発行元の出版社「インシデンツ」(東京都日野市)と著者を相手に出版差し止めなどを求めた仮処分で、広島地裁(植屋伸一裁判官)が書籍の記述についてプライバシー侵害を認める一方、差し止めをするほどの違法性はないと判断していたことが10日、分かった。出版社側が明らかにした。
 決定は、書籍が(元少年の)名誉を棄損し、プライバシーを侵害したと認定。その一方で「重大な損失を受ける恐れがあり回復を事後に図ることが著しく困難とまでは認められない」とした。
 決定はまた、少年時の罪で本人と分かる情報の掲載を禁じた少年法の規定を守るべきという元少年側の主張に対し、「書籍の発表当時、(元少年は)28歳の成人で少年法の保護を受ける立場ではない」と指摘。「少年犯罪に対する国民の関心は高く、書籍公表は公共の利害に関する」とした。
 元少年側は「著者が原稿を事前確認させると約束したのに守られず、少年法違反の書籍出版を強行した」と主張。しかし決定は、著者が元少年に実名掲載の事前承諾を得ていたことを認定した。 
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この事件についても、いろんな意見があるようですね。
その中でも「冷酷な殺人者に人権はない」「実名くらいばらされて当然」的なものがよく目に付く気がします。
しかし、当然ながら、基本的にはそういう発想に立った決定ではないんですね。
書籍の事前検閲は、結果的に思想統制にも繋がりうる危険な行為です。
そのため、検閲については憲法で厳重に禁じられているのです。
すなわち、書き手の表現の自由は、ほかの基本的人権に比べてもとりわけ優位に保護されているというのが、憲法上の大原則なのです。
そのため、表現の自由を封じようとする主張は、基本的には劣勢なのです。
本件で言えば、元少年弁護団の申し立てた書籍出版差止仮処分は、まさしく表現の自由に対する挑戦なわけです。
当該仮処分決定では、「重大な損失を受ける恐れがあり回復を事後に図ることが著しく困難とまでは認められない」と判断されているようです。
これはすなわち、事前差し止めを認めずとも、事後の損害賠償ないし謝罪広告等でも十分でしょう、敢えて仮処分を認めるまでの必要性はありません、ということです。
この手の少年事件関連報道でいつも問題になるのが、「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については, 氏名, 年齢, 職業, 住居,容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。」と定めた少年法61条との関係です。
事件当時少年であった者が少年法61条で保護されたとしても、成人後なら実名報道自由というのでは、少年法61条の趣旨は著しく損なわれます。
この仮処分決定は、おそらく「元少年側が実名掲載の事前承諾を与えていた」という認定に加え、「事前承諾した時点では成人=少年法は関係ない」で、そこをクリアしたのかなという印象です。
単に「少年事件に対する世間の関心は高い」なんて理由だけじゃ、不十分でしょうね。
まあ、ただ、実名掲載の必要性ってどのくらいあるの?という点は気になりますね。
仮名報道では成り立たないのでしょうか?面白みが薄れるのでしょうか?
もしそうだとしたら、それってただの暴露本では?公共の利害に関する内容とはいえないのでは?とも思います。
おそらく保全異議申し立てがなされるのでしょうから、引き続き高裁の判断を見てみたい事件ですね。
ではまた。