最近判決事例が増えている件2
私たち弁護士は、常に原告側の代理人になるわけではなく、被告側の代理人になることもままあります。
訴訟を申し立てられてしまった方のために盾になり、降りかかった火の粉を払うお手伝いをすることは、大事なことです。
本日は、被告側の代理人として活動するときのことを、場合分けしてお話ししましょう。
1.判決に至れば勝訴できることが、訴状をみれば一目瞭然の場合(=対立当事者である原告の請求を棄却してもらえる場合)
これは、要するに対立当事者の訴訟が100%言いがかりの場合、又は、対立当事者側に大勘違いがある場合、などですね。
ある日突然交通事故に遭うがごとく、突然前触れもなく変な訴状が自宅に届く、ということはありうるのです。
こういう場合に被告側代理人が第一に考えることは、もちろん、いかにして速やかに勝訴判決を勝ち取るか、です。
この「速やかに」が大事です。
被告側にとっては、この訴訟を長引かせることについて、何の経済的メリットもないからです。
2.判決で100%勝訴できるかどうかが、訴状からは必ずしも明らかでない場合
実際には、1よりもこちらの場合の方が多いですね。
特に対立当事者側に弁護士がついている場合などは、内容的に相当盛られてしまっていることはあっても、完全100%言いがかりの訴状であるとか、大勘違いがあってトンデモ訴状になってしまっているということは、さすがに少ないと思います。
やはり訴訟が起こされるに当たっては、往々にしてそれなりの背景と理由があるものです。
で、この場合、依頼者(=被告にされてしまった方)のご意向がまず一番大事です。
どれだけ時間をかけても判決をとって自らに責任がない(あるいは大した責任ではない)ことを公的に証明したいのか、それとも、ある程度の金銭を支払うなどして早々に和解で終わらせたいのか、それによって、その後の対応はまるで変わってきます。
私の感覚では、こういう微妙なケースで訴状を持って当事務所にご相談にいらっしゃる方の過半数は、後者(適当な条件さえ整えば和解希望)であるように思います。
3.訴状見たら分かる、負けるヤツやん!という場合
この場合は、相談にいらした方も、ご自身の責任を自覚されていることが多いように思います。
そういう場合は、私も「おっしゃりたいこともたくさんあると思いますが、それはぐっと堪えて、和解させて下さいと、ご自身で法廷に行って裁判官にお話してみてください」「裁判官も人間ですから、悪いようにはしないと思いますよ」などとアドバイスすることが多いです。
それで後日「ありがとうございました。おかげさまでうまく和解ができました」とご連絡をいただければ、私も弁護士としていい仕事をしたな、と思えるものです。
法律相談だけであっても、弁護士として充実感を覚える瞬間です。
これに対して、ご相談者の方がご自身の責任を十分に自覚していない場合。
あるいは上記2のように、先は見えづらいけどどうも旗色が悪そう、という場合。
これは対応が大変です。
法律相談だけで終了ならそれで構いませんが、なかなかそうもいかないこともあります。
細かい事情はそれぞれですが、負けスジ事件(ぽい)かつ依頼者もそれを十分に自覚していないけど自分が受任しなければならない、という瞬間があるのです(事件のスジが訴状段階ではよく分からない、ということも多々あります)。
こういう事件のさばき方が、まさに訴訟で戦う弁護士の真骨頂の一つ、といっていいくらい重要だと思います。
こういう事件をきっちりさばける弁護士ほど、訴訟に強いものです。
例えていうなら、「運転免許証の色はブルーだけど、運転免許証取得以来30年間毎日運転していて一度も事故を起こしたことがない熟練ドライバー」のようなものです。
運転免許証取得以来一度も運転していないゴールドドライバーと、果たしてどっちが腕が上か?ということです。
勝ちスジ事件で勝つのはある意味当然のことで、負けスジ事件の負けをいかにして抑えるかは、弁護士の腕がシビアに問われます。
100の負けを0にすることは、相手がよほどミスをしない限りは難しいことです。
が、100の負けを90に抑える、80に抑える、といったことが可能となれば、それは十分に価値のあることだと思います。
あるいは50に抑える、30に抑える、といったことが可能となれば、ほとんど逆転勝利に近いと思います。
言葉は悪いですが、こういう事件で被告側代理人弁護士が手を抜く気なら、いくらでも抜けます。
依頼者に怒られない程度の、形だけの答弁書を出し、形だけの訴訟追行をすればいいのです。
で、敗訴判決が下ったら、「不当判決です」「裁判官は何もわかっていません」「控訴しましょう」と、全部裁判官が悪いことにすればいいのですから。
場合によっては、控訴までこぎつけて、控訴の弁護士費用まで頂くかもしれません。
そんな不誠実な代理人弁護士は、残念ながら結構多いと思います。
しかし、弁護士としてそういう手抜き対応は、いかがなものかと思います。
私は、いつも依頼者の方に対して誠実にありたいと思っています。
ですから、厳しい見通しもきちんとそのままお伝えし、その前提で今後どうしましょうかということを、現実的な目線で依頼者と話し合います。
依頼者の方がご自身の責任を十分に自覚されていないなら、じっくりと話し合い、裁判所の判断メカニズムを説明し、裁判の流れがご自身に不利であるということを分かっていただけるよう努力します。
そして、判決を避け、和解で解決できるよう、依頼者の方を説得します。
依頼者の方からすると、大変厳しい弁護士だと思われるかもしれません。
でも、厳しい状況の時は、厳しい状況であるとありのままにお伝えすることが、誠実な対応だと思います。
医師だって、ステージ4のガンを見つけたら、黙って知らんぷりというわけにはいきませんよね。
弁護士だって同じだろうと思います。
弁護士が説得力を発揮すべき相手方は、対立当事者や代理人や裁判所だけではないのです。
こういう事件の対応は、15年前に横浜弁護士会(当時)へ移籍した後、イソ弁時代に大量に経験しました。
東京弁護士会時代のボスのもとでは企業・渉外・大型倒産事件の経験を積ませていただきましたが、民事訴訟・家事訴訟については、横浜のボスから多いに学ばせていただきました。
横浜のイソ弁時代の話は、またの機会にお話しします。
ではまた!