再逮捕されちゃったんですねぇ…

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当事務所はまだ冬休み中。年始は6日水曜からです。
今年の正月は諸事情で結局初詣くらいにしか出かけませんでしたので、かなりゆったりと過ごせました。
だいぶ英気を養いましたよ。
年末のDynamiteやガキの使いに始まり、相当テレビ見てますw
そんな年始にいきなり飛び込んできたこのニュース。
昨年末の逮捕である程度予想されてはいましたが、やはり注目してしまいますね。
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元俳優・押尾 学容疑者を保護責任者遺棄致死容疑で再逮捕 起訴されれば裁判員裁判に
1月4日18時32分配信 フジテレビ


麻薬取締法違反の罪で起訴された元俳優の押尾 学被告(31)が、女性に適切な救命措置を取らなかったとして、保護責任者遺棄致死の疑いで再逮捕された。これで3度目の逮捕となり、起訴されれば裁判員裁判になる。
押尾容疑者は4日、2009年8月に東京・六本木ヒルズの一室で、田中香織さん(当時30)に合成麻薬MDMAを飲ませ、錯乱状態に陥った香織さんに適切な措置を行わず、放置・死亡させた保護責任者遺棄致死の容疑で再逮捕された。
再逮捕に田中さんの母親は「容体が悪くなった時、すぐに119番してもらえなかったというのは、わたしたちがずっと思ってきたことの原点です。思っていた領域に、捜査なり取り調べが進んでいけるのかなと感じました」と語った。
今回の再逮捕は、保護責任者遺棄で立件するのか、より罪が重い遺棄致死で立件するのか、行方に注目が集まった。
警視庁は、いわゆる「空白の3時間」について、田中さんの容体が急変したのは午後6時前後で、午後7時前後には死亡したと推定。救急車を呼ぶ時間は十分あり、田中さんが助かった可能性が高いとみている。
一方、調べに対し、押尾容疑者は容疑を否認していて、「女性の容体が急変して、そのまま亡くなった」と供述している。
また、すぐに救急車を呼ばなかったことについては、「自分もMDMAを飲んでいたので、そのことが発覚するのが怖かった」と供述している。
3年以上の懲役となる保護責任者遺棄致死罪で起訴されれば、押尾容疑者は裁判員裁判によって裁かれることになる。
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二つの意味で、かなり珍しい形の再逮捕だと思います。
1.11月判決との関係
まず、何よりも弁護士として考えてしまうのは、押尾氏が、12月の逮捕及び今回の再逮捕の件とほぼ重なる同機会の事実について、昨年8月に麻薬及び向精神薬取締法違反(使用)容疑で逮捕され、11月に懲役1年6月・執行猶予5年の有罪判決を受けている点です。
どういうことかというと、12月の逮捕の件(麻薬及び向精神薬取締法違反(譲渡)容疑)及び今回の再逮捕の件(保護責任者遺棄致死容疑)は、もし罰せられるのであれば上記裁判の中で同時に裁かれているのが通常であるということです。
刑事裁判ではいわゆる「一事不再理の原則」というものがあり、ある刑事事件について確定判決があれば、その事件について再度実体的審理を行うことは厳に禁じられているのです。
これが問題になった事件としては、最近ではいわゆるロス疑惑が有名ですね。
そのため、仮に上記裁判の中で裁かれなかったとすれば、12月の逮捕の件と今回の再逮捕の件は、事実関係としては11月判決の件とかなりかぶりますので、事実上見逃してもらえたことになると考えてもおかしくないのです。
もっとも、麻薬等の使用容疑と、麻薬等の譲渡容疑及び保護責任者遺棄致死容疑とでは、問題とされる行為態様が異なります。
ですから、厳密な意味で言えば、別に12月の逮捕や今回の再逮捕が一事不再理の問題を生じるわけではありません。
ただ、一事不再理の原則違反として弁護団に争われる可能性は大いにあるでしょうし、検察官もそれほど暇ではありませんので、この事件は関連事件も含めてとりあえず11月判決で終わったとして処理してしまい、あとは不問に付す、というような扱いも実務上多いのです。
では、どうして検察は今回の12月逮捕及び1月再逮捕に踏み切ったのでしょうか。
それは、理由が二つあるだろうと思います。
まず一つは、11月判決後にも新しい証拠が収集され、押尾氏についての麻薬等譲渡及び保護責任者遺棄致死容疑の嫌疑がより深まった、ということがあるのでしょう。
報道レベルだと、押尾氏からMDMAをもらったという女性芸能人が複数現れたようですね。
ここから譲渡容疑を煮詰めて12月逮捕に踏み切り、今回本命の保護責任者遺棄致死容疑での再逮捕にこぎつけたのでしょう。
12月逮捕については、刑事訴訟法的に言えばいわゆる別件逮捕ではないかという問題もありうるのですが、実務的にはまあセーフでしょうね。
過去に関係のあった女性たちから次々糾弾されてしまうというのも相当かっこ悪い話ですが、まあそれも押尾氏のこれまでの人生の結果であるというほかないのでしょうね。
二つ目の理由として、検察が相当本腰を入れてきたということです。
これは、被害者のご遺族の心情や世間の注目度などもあるでしょうが、たぶん押尾氏が(虚偽供述などで?)検察を相当怒らせたのではないかと思います。
検察というのは、「コノヤロー許さん!」「悪は許すまじ!」と思った相手に対しては、本当に容赦なく苛烈に攻め立ててくる組織です。
やはりそこが今回の流れの一番のポイントだと思います。
検察に相当のやる気がなければ、今回のような流れはまずありえないと思います。
一体押尾氏と検察の間にはどのようなやりとりがあったのでしょうか。。。
いずれにしても押尾氏が大きなミスをやらかしたことは間違いないのでしょうね。。。
2.保護責任者遺棄致死罪という犯罪類型について
保護責任者遺棄致死罪という犯罪は、実務的にみるとかなりレアな犯罪類型です。
どうしてかというと、被害者と加害者の間に、「加害者は被害者を保護すべき義務があったのにそれを怠った」という人的関係があることが必要だからです。
ですから、例えば両親と乳幼児のような絶対的保護関係であればともかく、本件のように、地位も立場もほぼ対等な大人同士の間で保護責任者遺棄致死罪が門議されることは、私の知る限りはほとんどないはずなのです。
しかし、仮に、2人きりの部屋で互いにMDMAを服用した後で相手が突然ショック状態を起こして意識を失うというようなことがあったのであれば、やはり他方には相手を保護・救護すべき義務があると言わざるを得ないでしょうね。
地位も立場もほぼ対等な大人同士の間で保護責任者遺棄致死が問題になったと、そういう意味で非常にレアなケースだと思います。
この点、報道レベルでは、「MDMAを押尾氏が女性に渡したとすれば、押尾氏には保護義務が発生する=保護責任者遺棄致死罪が成立する」的な言い方がされているように思います。
しかし、MDMAを押尾氏が持ってきたか被害女性が自分で持ってきたかという点は、私個人の考えでは、保護責任者遺棄致死罪を門議するレベルでは、必ずしも重要ではない気がします。
本件では、(1)押尾氏が保護義務のある保護責任者といえるかどうか、(2)押尾氏が保護義務を怠ったといえるか、の2点が大事なのですが、(1)については「2人きりの部屋で互いに合意の上MDMAを服用したこと」でほぼ十分な気がしますし、(2)については女性がショック状態に陥ってから死亡するまでの押尾氏の具体的行動(=保護義務を怠ったといえるか)がポイントなのだろうと思いますし。
仮に被害女性がMDMAを持参してきたのだとしても、2人きりの部屋で合意で互いに使用した後の話ですからね。
押尾氏が全くあずかり知らないところで被害女性が一人で勝手にMDMAを使用してショック状態に陥ったというならともかく、そうじゃないわけですからね。
もっとも、押尾氏がMDMAを持参して来たなら、保護義務の度合いを強める方向に多少影響を与えるかもしれません。
とはいえ、その程度の話ではないかと思います。
3.その他思うこと-矛盾供述の指南役について
もしも押尾氏が実はMDMAを被害女性に譲渡していたとすると、事実と、11月に判決が出た件における押尾氏の供述内容(=MDMAは女性にもらった)とが明らかに異なってくるわけですね。
もしそうだとすれば、この点は2人きりの部屋での話ですから、まあ死人に口なしで、押尾氏が女性に責任を押し付けたということになるのでしょう。
もしそうだとすれば、私がつい気になってしまうのは、「譲渡の点の虚偽供述を一体誰が入れ知恵したの?」「誰が指南役なの?」という点です。
まことに恐縮ですが、押尾氏が自分ひとりの頭で考えたとはちょっと思えないんですよね。。。
ではまた。