混合診療について

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先日、いわゆる混合診療の可否について、非常に重要な高裁判決が出ました。
逆転敗訴した原告の方は、上告されたようです。
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『混合診療』禁止は適法 東京高裁判決 原告側が逆転敗訴
2009年9月30日 朝刊











記者会見中、唇をかむ原告の清郷伸人さん(中)=東京・霞が関の司法記者クラブで

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 公的医療保険が適用される診療と、適用されない自由診療を併用する「混合診療」を受けた場合、診療費が全額自己負担となる国の制度は違法として、がん患者の男性が国に一部診療の保険適用を求めた訴訟の控訴審判決が二十九日、東京高裁であった。大谷禎男裁判長は「混合診療は原則禁止されており、制度に合理性がある」として、原告の訴えを認めた一審判決を取り消し、請求を棄却した。原告は上告する方針。



 原告は神奈川県立がんセンターで腎臓がんの治療を受けている団体職員清郷伸人さん(62)。混合診療を受けたことで、保険診療分も自己負担になったのは、健康保険法や憲法が保障する生存権に反すると主張していた。



 大谷裁判長は、一部の先進医療などに限定して混合診療時の保険適用を認める「保険外併用療養費制度」で、適用対象の診療が明確に規定されていることを挙げ、「原則は混合診療を禁止していると解するのが相当」と指摘。適用対象外の診療は保険給付を受けられない、と判断した。



 その上で「同制度は財源面の制約や医療の安全性、有効性の確保の観点で行われているもので、合理性を欠くとは言えない」と結論づけた。二〇〇七年十一月の一審東京地裁は「制度が定める対象は、保険適用が認められる診療の組み合わせをすべて網羅したものではない」と、混合診療禁止を違法とする初の判断を示し、国が控訴していた。



 判決などによると清郷さんは〇〇年に腎臓がんが見つかり、医師の勧めで保険適用のインターフェロン治療と、適用対象外の「活性化自己リンパ球移入療法」を受けた結果、インターフェロン治療の分も自由診療として全額を自己負担とされた。



 長妻昭厚労相の話 国の主張が認められたと考えている。
◆治癒遠のく判決 原告の清郷さん



 「がん患者、難病患者が治る道が遠のく判決をもたらしたことに責任を感じる」。東京高裁での逆転敗訴判決を受け、東京・霞が関で記者会見した清郷伸人さんは無念な思いをにじませた。



 二〇〇六年三月、医療に詳しい弁護士らにも「混合診療訴訟は経験がない」などと断られ、本人訴訟で提訴した。一審は予想外の勝訴。控訴審では弁護士の支援を受け、「私一人の問題ではない」という思いで通院生活を続けながら国と争ってきた。混合診療の全面解禁は「弊害もあると感じている」とした上で、「ハードルを設けた上で原則解禁にしてほしい。治療方法の選択権は、医師と患者に与えられるべきだ」と訴えた。

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混合診療って、あまり耳にしない言葉なので、ぴんと来ない方も大勢いらっしゃると思います。
簡単に言うと、「健康保険の適用がある診療と、保険適用外の診療を併用すること」です。
上記高裁判決は、混合診療は原則禁止されているという解釈を明らかにした上で、「健康保険適用外診療を行っただけで、従来から保険が適用されてきたインターフェロン治療についてまで保険の適用が受けられなくなるのはおかしい」という原告患者さんの請求を棄却したわけです。
しかしこれだけを聞くと、混合診療になぜ問題があるのか、なぜ原則禁止なのか、さっぱり見当もつかないという方が多いのではないでしょうか。
私は、数年前にとある事件でこの問題に直面しました。
どういう事件かというと、とある美容整形医が、実際には行っていないはずの美容整形施術を行ったとして、健康保険組合への架空診療報酬請求を行っている疑いが生じた、というものです。
私の依頼者は、当該美容整形医の施術を受けた女性でした。
その方は、ある日健康保険組合から届いた医療費の通知ハガキを見て、当該美容整形医からj健康保険組合に対して診療報酬請求(=つまり健康保険でまかなわれる70%分の請求)がなされていることに気付きました。
美容整形施術ですので、健康保険適用外診療として健康保険を使わずに高額な診療費を支払った(それ以外の金員は支払っていない)にもかかわらず、なぜ当該美容整形医から健康保険組合に対して診療報酬請求がなされているのか?
これがその方の疑問でした。
この疑問を、当該美容整形医にぶつけたところ、当該美容整形医の回答は、
「保険適用外診療のほか、保険の適用される診療も行った。その分の診療報酬請求を行った」
「混合診療は認められているのだから、全く問題ない」
というものでした。
恥ずかしながら、このとき私は「混合診療」という言葉の意味がよく分からず、必死に調べました。
その結果分かったのは、「混合診療を正面から禁止する規定はない」「しかし、例外的にのみ混合診療を認めている現在の運用からすれば、混合診療が原則禁止であることは明らか」ということでした。
ここで初めて、その件が混合診療の問題を含んでいることを認識したのでした。
ちなみにこのときの相手方の美容整形医は、その後架空診療報酬請求による詐欺容疑で逮捕されました。
おそらく現在も刑事裁判で係争中なのではないかと思います。
話を元に戻します。
つまり混合診療というのは、診療の範囲を拡大する分、医療費の増大を招くわけです。
それについて全面的に健康保険の適用を認めてしまうと、現在の健康保険料では到底足りず、もっと巨額の財源が必要となります。
そうなると、結局国民の負担は飛躍的に増大するおそれがあります。
また、国民が誰でも診療報酬の高額な診療を受けられることになり、医師が診療報酬の高額な治療を優先することになってしまえば、全体として医療の水準を保てるのかという問題も生じ得ます。
それに加え、結局架空診療報酬請求により、一部の心ない医師が、不当に莫大な利益を得ることができる可能性も出てきてしまうのです。
そういったことを考えると、混合診療は原則禁止という点そのものは正しい考えであろうと思います。
上記事件の原告の方は、高額な保険適用外診療について自費で支払うのは致し方ないとしても、それによって従来から健康保険適用により3割負担で済んできたインターフェロン治療まで健康保険適用がなくなってしまうのはおかしい、というご主張のようです。
確かにお気持ちは分かる気がします。
しかしそうだとすると、これは、混合診療が原則禁止であるという前提に立ちつつ、従来からのインターフェロン治療は例外として保険適用を認めてほしい、という争い方にも見えます。
もしそうなら、やはり争いの筋としてはあまりよくない、ということになってしまう気がします。
どちらかというと、司法判断のレベルではなく、政策とか立法の問題のように思います。
というわけで、高裁の裁判官に対して「冷血」とか、「がん患者の実際を分かっていない」とか、いろいろと批判が浴びせられているように見受けますが、現状の法律と政策を前提とする限り、高裁判決はやむをえないように思います。
裁判所に対して腹を立てることも多い私ですが、本件については、そんな風に思います。
ではまた。